lvls_i’s blog

あなたの為に死ねるならそれ以上の幸せはないよ

狐の嫁入り

 

華やかな会場に広がる笑い声。

視線の先には純白のドレスを身に纏う、君。

 

華やかなものより実用的で簡素なものを好んだ君に似つかわしくない様に思える豪奢なドレス。

 

俺と別れてから趣味が変わったのかな

それともそれは君の隣にいる彼の趣味?

 

俺の知る君は恋人の趣味で服を変えるような人じゃなかったけどな

 

まぁどうでもいいか、

 

この場から君を攫って行けるほどの勇気はないし君を幸せに出来る確証だってない。

 

それにきっと君も望まない。

 

あの日の喫茶店、なにも言えなかった俺を見て分たれた袂。

 

どうせ何も出来やしない

何も出来やしないから俺がここにいることが君に気付かれないことを祈っていた。

 

幸せに見えるこの会場の主役である君の心が少しでも平穏であるようにと、決して交わることない未来を空に描く。

 

俺は君のそばで君と幸せになれないから、君はそこでどうか幸せになってくれ。

 

ああ、でも

 

叶うのであれば二人で幸せになりたかった。

 

俺の愛じゃ君を縛れないのにただの金属と石が君を縛れるのは何でなんだろう。

 

君の左手薬指、君を縛る人がいる証。

 

いつまで経っても醒めない夢を追う俺には到底買えもしないだろう指輪。

 

君は知っているのかな

 

古来より将来を誓う証として送られてきた指輪には、もし何かがあって別れた時の足しにしてって意味があるってこと

 

幸せの始まりに終わりを見るものを贈るなんてさ、

 

「金があるから、安定してるからなんだよ」

 

楽しげな会場の中に正反対の感情が紛れ込む。

 

金があったって愛がなきゃどうにもならないでしょ

 

そんなこと俺が言う資格はないってわかってる。

君が俺に別れを告げた日、ただ黙って言葉を受け止めることしか出来なかった俺だから。

 

でもそう思わずにいられなくて、

 

君の幸せを願う感情ともう二度と交わらない俺達の運命を憎む感情が混ざりあってオーバヒートする。

分かっていても理解することを拒む脳がそばにいれない理由を探す。

 

バンドマンと社長令嬢?

彼女だけを優先できないから?

見えない未来のせい?

 

いやきっと全てだろうな

 

ぐちゃぐちゃになった気持ちが腹の底で渦を巻く。

 

もし、時を戻せるのなら君と出会わずにいたかった。

思うだけでこんなにも痛いのなら、

 

「貴方は私の最後の恋です」

 

花嫁の手紙を読んでいた君の言葉に飛んでいた突如として思考が引き戻される。

 

引き戻されて引き戻されて、辿り着いた先は四畳半の楽園。

 

レースのカーテンを被って気恥しそうにはにかんだ君、四畳半のチャペル。

 

思い返すまでもなく魂に刻んだあの言葉。

 

鮮やかに彩られた君の瞳から雫が落ちる。

 

 

ああ、

 

君の中に変わらない愛を見てただそれだけのことで救われる。

 

それだけでいいよ。

もう充分だよ。

 

君の中に変わらないものがあるならそれだけを後生大事に抱いて生きていけるから。

 

 

音も予兆もなく溢れた涙を拭う。

 

 

ああ、幸せが確約された6月の花嫁

 

もう充分、もう充分だから、

どうかもう俺を忘れて。

どうか幸せに。

 

ただ、ひたすらにそう願っている。

 

嘘つきの花嫁が今日神様の前で未来を誓う。

 

 

ああ、空も泣いている